10話「何のための社畜なのか!?」
入社した最初はよかったんだけど……「ウツ」に、なっちゃったんだ
す、鈴木さんが……!?
なかなか評価されなかった新入社員時代
インターン留学を終えて、意気揚々と帰国した僕。英語も覚えて、向かうところ敵なし!って感じだった
おお〜、さすが!
ただ就職氷河期で、かなり大変だったね。しかも留学してて遅れての就職だったから
今、俺も就活中なんすけど、正直エントリーシート書くだけでげんなりっすね……
面接の練習もしないといけないし……
何より、ライバルが多い……
そうだよねぇ。数十社受けたのに受からないなんてザラだった
しかもそこに、就職氷河期か……
ひぇ〜!大変そう
そうなんだよ……しかしね!
そんな中でも、なんと
第一志望の企業に就職できたんだ!
うらやま!!
僕が行きたかった通信情報系の最大手だね
情報通信系……って
ま、まさか、◯TT……!?
まぁ、そこは想像におまかせするとして。インターン留学の経験が珍しかったんだろうね。
うーん、今からでも検討すべきか……?
そして無事就職!そこから社会人生活が始まる!
やっぱり、一目置かれてたんすか!?
いやぁ、当時の先輩からは「キョリ」を置かれてたよ(笑)
キョリかーーーい!!!!
うるさ!
ははは、いやー今思うと、すごく生意気な新卒だったね
え、鈴木さんが!?
先輩とか上司に「ココを変えたほうがいいと思います!」って、ガンガン意見言ってたからね
アメリカ帰りもあいまって、相当うざったい存在だったろうね
意外すぎる……
とくに教育係の先輩なんて、大変だったと思うよ。先輩のアドバイスを素直に聞かずに、自分のやり方で進めちゃってたからね
そんなことやってるうちに、僕は煙たがられるようになった。声かけてくれる先輩や上司はほとんどいなかった
それは結構ツラいっすね……
ところが、1人かわいがってくれた先輩がいてね。生意気な僕のやる気を買ってくれてたんだ。その人が、孤立してた僕をある部署に誘ってくれた
ある部署?
そう……
新規事業開発部!
そこで、僕は花開いたんだ!
絶好調の新規事業開発部時代!
配属されてまもなく、その部署で、新規プロジェクトが立ち上がった。先輩は僕にそのリーダーを任せてくれた
へぇ〜、大抜擢!どんなプロジェクトだったんすか?
新しいシステムの開発だね。全国の市区町村で、データを管理しやすくするためにね。今ほどデジタルなんてない時代だから、それはもう大変だった
全国ってかなりの規模ですね
そう、だからこれまでのシステムではダメだった。それで僕がインターン留学で使ってたアメリカの最新システムを思い出した!
うおーーーー、つながった!!
日本で史上初の導入だったね……。いやー、大変だった
めちゃくちゃ忙しそう……
そうだねぇ。プロジェクトを任されたその日から、激動の毎日だったよ
それこそ、寝る間も惜しんで仕事。常に栄養ドリンク片手にね。終電を逃すなんてザラだった
ヒェ〜〜〜!
ははは。もちろん大変ではあったけど、楽しくもあったよ
だって、初めて任される大きな仕事だもの。ここで認めてもらうぞって意気込んでた
そういうものか……
つまずきながらだったけど、無事にプロジェクトを終えることができた
某番組みたいだ……
日本史上初ということもあって、新聞でも取り上げられたっけかな
それはうれしいですね!
そして、少し落ち着いた頃、部長に声をかけられたんだ。「鈴木くん、ちょっと話がある」とね
えっ、なんか怖い。何の話だろう……
「鈴木くん。
今年の全社表彰者に、キミが選ばれたよ」
全社表彰!?
え、若手だったんすよね!?
全社表彰って……
会社で、いちばん成果を出した社員として選ばれたってことですか……?
まぁ、恥ずかしながらね
ようやく、まわりの人にようやく認められたんだ。それこそ、煙たがられてた人たちにもね。やってやったぞって
このまま出世コースまっしぐらとも言われたよ。自分でもそう確信してた
そうですよね。誰が見てもそう思う……
あらためて俺ら、今すごい人と喋ってるんだな〜……。失礼なこと言わないように気をつけよ
いやもう散々してるわ!
いやいや、そんなにかしこまらないでほしい。僕は、純粋に古典の話をしたいだけだから
鈴木さん……!(キラキラ)
で、全社員1万人の前で表彰されたんだけども
や、やっぱりスゲー人じゃないっすか!
これは「自分がやるべき仕事」か?
たしか、ホテルの50階だったかな。全社総会が開かれたのは
うわわわ
正直、めちゃくちゃ緊張したよ。会長、社長、役員、それに取引先の社長たち。それに加えて、ゲスト。CMに出るような芸能人が何人も来てた
出された料理の味も、全然わからなかったね
そうなりますよね。同期はもちろん、近い世代の人もいないわけですもんね……
そう。嬉しくもあったけど、その場を去りたい気持ちもあったね(笑)
で、ついに、表彰の時がやってきた。1人、また1人と名前が呼ばれていく
心臓はバックバク。口はカラカラ。手に汗握りながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた
なんか俺までドキドキしてきた
そして、自分の名前が声高らかに呼ばれた瞬間。何とも言えない高揚感
他にもたくさん同期がいる中で、自分が表彰された優越感。自然と体がふるえたね
おお〜!
表彰が終わって、緊張もほぐれてきた。浮かれてお酒もしこたま飲んでたね
「やりきった!」って達成感に満ちあふれながら、ふと大きな窓から夜の街を見下ろした
その時、思ったんだよね
……君たち、徒然草は知ってるかい?
え?えーっと、古典で習った……
兼好法師が残した随筆ですね
うん。兼好法師は、今から800年前の人だね。天皇に仕えていて、出世コースだったけど出家した
で、そんな兼好法師が記した、あの言葉がピッタリ来たんだな
アリのごとく……?
うん。見下ろす夜の街に、ビル街の明かり。普通なら、キレイな夜景だと感じるかもしれない
でも、道路を行き来する車、夜遅くまで仕事をするサラリーマンたち……まるで、アリみたいに見えた
考えてみれば、たくさんの人が集まって、日々忙しそうにしてる。役職を持ってようが持ってまいが、若かろうが年をとってようが
なるほど……
そしてみんな、目の前の仕事にばかり向かってる。僕も、そんな中の1人だった
そこで、また、スッとね……来たんだ。あの、むなしさが
大企業に就職して、将来は安定。しかも、結果も残せて出世はほぼ確実
でも、むなしい。それこそ、アリみたいだと思った
うぅ……
代えが、きくんだ。自分がいなくとも、会社はまわる
自分がいなくてもまわっていく、っていうむなしさ、あるなあ……
そんな中で、「忙しい忙しい」を口ぐせに働く理由は何なのか、疑問に思ったんだ
さっきの徒然草の言葉は、800年前のものだけど、今も変わらないよね
たしかに
近年は、働く意義に悩む人が増えてる。じゃあニートがいいのかと言われると、そうではないんだけど……
働く意義に悩む気持ちは、痛いほどわかるんだ
………
鈴木さんの言葉……重みがある
その時、「自分の仕事は、他の人でもできる仕事じゃないか?」と、気づいたんだな
自分じゃなくてもいい、ってことですよね
そう
そう考えたら、やるせなくなった。どこまで行っても、どれだけ成果をあげても、自分は会社の歯車なんだ
会社の歯車、か……
俺もそれは思うな〜俺にしかできないことがやりたいっすね。そんでもって成功したい!
……そう!そうなんだ山下くん!
へ?
他の人にもできる今の仕事じゃなくて、自分にしかできないことがやりたい!
そう思った僕は、「起業の夢」を持つようになった!
つ、ついに……
鈴木さんの……
サクセスストーリーが!?
(つづく)
※ヨアケの内容やURLは、限定コンテンツにつき、SNS等での共有はお控えください。