13話「スズキ・ラブストーリー」
再び回り始めた歯車
ある女性との出会いが、僕の人生を一変させたんだ
ある女性……!?
す、鈴木さん
……もしかして愛人……?
なわけねーだろ!
あれは、僕がまだ大学生の頃の話さ……
当時、鈴木青年はバンドに明け暮れていた。寝ても覚めてもバンド、三度の飯よりバンド
あ、ドラマーだった時の話だ
僕は、大学近くの楽器店にいた。
ドラムのフットペダルを新調しにね
財布と相談しながら、悩んでいた時。店員さんが声をかけてきた
せっかくだから、いいペダルはないか相談したんだ
すると、丁寧にオススメを教えてくれてね
「バイトさんみたいだけど、この人も音楽に詳しい人だな」と思いながら、なにげなく名札を見た……
なにか見覚えのある名字だった……
え?
それで、顔をのぞいたら……思い出した!
な、なんと!?
僕の……初恋の相手だったんだ!
えぇぇ、初恋の相手!?
ど、どういうことですか?
さかのぼること、中学生の時
その子は勉強もできて、運動もできて、友だちも多くてね
だけどちょっとクールで芯が強い。そんな女性だったから、当時の男子たちにとっては高嶺の花だった
でも、彼女とは小学生の頃からの幼なじみだった。よく、CDの貸し借りをしたり、放課後に話し込んだりしてた
そのときは特に何も思ってなかったんだけどね。当たり前の存在だったから
幼馴染うらやま!
うるさ
でも、彼女との別れは突然やってきた……
な、何が……?
ご両親の仕事の都合で、引っ越すことになったんだ
「実は引っ越すんだ」って言われて、はじめて彼女が好きだって気づいたんだ
ぐわぁ〜!
だけど、想いを伝えられなかった。あまりに恥ずかしくてね……
好きとは伝えられなかった
けど、隣にいてもふさわしい男になるって書いた手紙だけ渡して……
そして彼女とは離れ離れに……
せつなすぎるよぅ……
それが場所も時間も離れ、ふらっと立ち寄ったお店で再会できたんだ!
そんなことあるんですね……
僕も、信じられなかった。でも、面影は確実にあの子だった
勇気を振り絞って、僕は尋ねようとした…すると彼女から
「え!?鈴木くん!?」
やっぱり彼女だったんだね!
めでたい!!
しかも!僕らは、同じ大学に入学してたんだ!
うおぁ〜!あっちぃ〜!
そこから、昔話に花が咲いてね。
中学の頃に戻ったみたいで……何とも言えない懐かしさと、もう会えないと思ってた彼女に会えた嬉しさが、こみ上げてきた
「へぇ。今、バンドやってるんだ」
「うん。どうしてもやりたくなってさ」
「よかったら、今度聴きに行ってもいい?」
「もちろん!」
彼女と再会できた僕は、有頂天になっていた
これは嬉しいですよ……!
それを機に、ちょくちょく2人で会うようになった。あ、友だちとしてだよ?
夏休みには、一緒にキャンプに行ったり、映画館に行ったりしたね
彼女は、映画が大好きだったんだ。朝から晩まで、ぶっ続けで見るくらい
会うことも増えて、彼女との距離が近づいてる……そう感じてた
ところが、しばらくして事件は起こったんだ……
事件、ですか?
そう……いつものようにバンドの練習をしてた時のこと
飲み物でも買ってこようと、部屋の外に出たんだ
その時……!僕は目を疑った!
い、いったい何が……!?
廊下で、彼女と共通の男友達が話し込んでいたんだ
気が気じゃない僕は、バレないようにそっと耳をそばだてた
すると……男の声。「ずっと、好きでした!も、もしよければ……」
え!恋のライバル出現!?
ドキリ!
彼女を狙っている……!
焦る僕……!
隠れるのも忘れて、顔を出してしまっていた
なにやってるんすか(笑)
しかし、遠目から見ても、彼女が戸惑っているのがわかった
離れていたけど、一瞬、彼女の目は僕を見た、気がした
!
その瞬間、足が前に出ていた
僕は、彼女の手を取り、駆け出した――
夢中だった――
少し走って、噴水の前で足を止めた
振り返ると、困ったような表情の彼女
もう、僕はためらわなかった
(ゴクリ)
「……僕は、君が好きだ」
この時、もう心臓はバクバク。でも、彼女からは目をそらさなかった
うう〜、ドキドキする……
彼女からの返答を待った。信じられないくらい長く感じられた
ゴクリ
「私も。私も……鈴木くんが好き」
5年越しの初恋が、実った時だった
うお〜!!!めでたい!!
鈴木さんすごいですね。他の人が告白するタイミングで自分もって……
そうだね……こんなに価値観の合う人とはこの先、出会えないだろうなって、どこか確信してたんだ
だから、引いちゃダメだって思ったんだよね
ほんとドラマみたいな話っすね〜
これ以上ないくらい、価値観のあう人
彼女さんと、そんなに仲良かったんすか?
自分で言うのもなんだけど、仲良かったね。彼女とは、本当にどんな話でもできた
どの時代のロックバンドが好きか、どの映画シリーズが好きか……
好きな人と趣味の話できるのっていいっすねぇ……(しみじみ)
マルティーナと話続いてなかったもんな
おまえ!気安く呼ぶんじゃねー
もちろん他の話もしたよ。バイトでやらかした話とか、お互いの家族の話とか
将来何をしたいかって話も、よくしたね。自分のやりたいことが見つからないって、一晩中、一緒に悩むこともあった
思い返すと、沈黙すら心地良かったよ
お二人の関係、素敵ですね……
うん。価値観がびっくりするくらい似てて、何でも言える人だった
もうこれから先、こんな人には出会えないだろうなって思うくらいの女性だったよ
なにより、気丈な性格の彼女が、屈託なく笑う姿が好きだった
わかる、わかりますよ!
決めポーズの笑顔とか!みるる〜〜〜ん!!
いつもニコニコしてるのとかな!マルティーナ〜ッ!!
お前もかい!
と、まぁ……学生時代は一緒の時間も作りやすかったんだけど……
起業したあたりから、なかなか会えなくなっていった。僕が、不眠不休で仕事してたのが原因だ
そっか……そうですよね。やっぱ両立はむずかしいのか……
鈴木さん、彼女さんと会えなくなって、誘惑されることもあったんじゃないっすか〜?
まぁ……ね。でも僕は、一途だったよ
むしろ、もっと彼女を大事にしたいなって思うようになっていった
僕が忙しいことを知ってるから、食事を作りに来てくれたり、差し入れを持ってきてくれたりしたんだ
聞けば聞くほど、本当に素敵な女性ですね……
ね
そんな日々が続いて……僕はある一大決心をする!
一大決心?
そう。交際して10年……。上場したのを機に、決心したんだ
!
「千年経とうとも変わらない、木々の緑のように、長い年月が経っても、私の心は変わらないと、この小島の崎で誓おう」
匂の宮が、浮舟にプロポーズするシーンですね
マンガみたいな……え?もしかして……
ちょうど、彼女が家に来てくれた時。たわいもない会話の中で、切り出した
「そういえばさ、だいぶ昔のことだけど……僕が君に渡した手紙、覚えてる?」
「手紙?」
「うん。君が引っ越しちゃった日」
「中学の頃ね」
『次に会う時は、キミの隣にいてもふさわしい男になってるから』
「だから今……君の隣に立っても、いいかな」
そう告げて……そっと、彼女に指輪を差し出した
はじめは、彼女もぽかんとしていた。でも、だんだん顔を紅潮させて、両手で顔を覆った
そして、震える声で……
「うん……!」
エンダァーーーー
イヤァーーーー
アアアアアアアアアーーーーー
大声出すな!
めでてぇ〜!鈴木さん、めちゃめちゃドラマチックな恋愛してるんじゃないすか〜!
ハハハ、恥ずかしい(笑)まぁ、それからというもの、幸せな日々が続いてね
くそ〜うらやましい〜!
お幸せにぃ〜!
お前らな〜……
……ところが
その日々は、ある日をさかいに激変した……
え……!?
(つづく)
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