26話「“無常”から導き出された、衝撃の結論」

僕らが住む「世界」……

日本、って話じゃないっすよね……

そりゃそうだろ！

その世界については、前も話したね

火宅無常の世界、ですね

そう。これも、あまりに重い言葉なんだ

これまでも繰り返し、無常について触れてきたね

古典はもちろん、仏教では徹底されている教えだ

日本人なら、誰でも知ってますもんね

山下でもな

そうそう俺でも……ってオーイ！

「諸行無常」

たった漢字４字だけれども、この重みを知る人はない

この机も、お店も、日本も、太陽だって……

必ず滅びてしまう……

（ゴクリ……）

マジか、太陽も……？

聞いたことありますね。太陽にも寿命があるって

研究によると、100億年らしいね

なんだ、めっちゃあるじゃないっすか！

と、いっても……残り50億年の折返しに来てるんだけどね

え！？

そして太陽は徐々に大きくなり、5億年後には太陽熱で、地球の海水は蒸発。生き物は住めなくなる

ひぃ！！

あれだけ大きなものも、目の前の机も変化していく。今まで見てきたものも、全部そうだ

今までの……って

愛だろうと……

燃えるような恋愛。心から安心できるあたたかい家庭

素晴らしいことだ。それらを守るために、日々努力をしてる。必死にね

マルティーナ……

必死だったな……。毎日2時間電話して

でも、守ろうと努力するのは、そうしないと崩れてしまうからだと知っているからじゃないかな？

！！

「永遠の愛」……憧れるよね

憧れます、大好物で！　そういうアニメとか、映画とか見ちゃいます

でも、それも続かないってことですよね……

諸行無常だからね……。相手の姿も変わる、好意も変わる

マルティーナ……

……

しかしね、相手だけじゃない。自分も変わるんだ

だから「永遠の愛」を夢見たいワケか……

愛以外にも……夢、生きがい、生きる目標だって変化していく

アスリートも言ってましたね

達成したら、色あせる……

僕らは「これだけは変わらない」「ずっと続くはず」とカンカンに信じてる

「諸行無常」という言葉を知ってるようで、本当の意味では分かってない

本当に分かってたら、傷つかない。続くと思ってるから、ショックなんだな……

そして、究極の無常――

それは、「自分が死ななければならない」ということだ

うっ……

仮に、ステキな恋愛ができても

夢を叶えたとしても

崩れてしまう

……とんでもねぇや

ハイデガーだな

ハイボール！？　お前、この流れで……

ハイデガー！！　ったく……人間をさ「死に至る存在」って言ってるんだ

まさにそれだね

そして彼は、人間存在そのものの「むなしさ」も語っている

生きたい、けれど絶対に死ななければならない本質のむなしさだ

うーん、矛盾……

そんなのとは向き合えないから、やりたいことばっかして現実逃避するのかもな……

……そうだね

僕は、煩悩具足の凡夫が、火宅無常の世界に住んでいる――

歎異抄のココを読んで、ハッとしたんだ

これでは本当に幸せになることなんて、できないと

え！？　どういうことですか？

これまでのことを踏まえて、考えてみてほしいんだけれど

幸せって「これがあれば幸せになれる」という自分の心と、その対象がある

しかし……自分は「煩悩具足の凡夫」

あれがしたい、やっぱりこっちがほしい……そんな欲の心

昨日までは一緒にいたいと言っていたのに、気に食わないことがあって、もう顔も見たくない、と怒る

そして、自分だけでなく……

信じる対象も、同じように変わっていくってことですね

そう。「諸行無常」「火宅無常の世界」だからね

目の前にあるモノも、親しい人も、変わってしまう

今の状態は、続かない……

ここで！

！

「オドロキの事実」が発覚する……

お、オドロキの事実？

幸せは、自分が対象を信じることによって、成り立っている

ところが、自分も対象も、変わってしまう

となると……

幸せは、続かない……

そういうことになる

一時は幸せになっても、崩れるんだ。
まさに「そらごとたわごと」だと知らされた

やっぱり絶望じゃないっすか（涙）

うん。これで終わってたら……絶望だよね

読まなきゃよかったとさえ、思ってしまう

ホントっすよ……

当然、そんな内容じゃない。歎異抄にはこう記されている――

「無碍の一道」とね

出た！

ムゲノイチドウ！

希望キタ―――！