17話「欲しいのは慰めじゃなくて」

17話「欲しいのは慰めじゃなくて」

< 16話「幻影は背後に」

「僕の行き先」を探して

いつか死ぬのはわかったし……。それが怖くて、ごまかしながら生きてるのもわかりましたけど……

まさに、僕も山下くんと同じ気持ちだった……

この「死」の問題、どうしたらいいんだ?

僕は死んだらどうなるんだ?

この答えを求めて、僕は再び旅に出たんだ

た、旅……ですか?

そう。  
死んだらどこに行くのか――

「私は、どこから来てどこへ行くのか。人生の始まりも終わりも知らぬわが身だ……」

たしか源氏物語に出てくる薫も、言ってましたね。14才というのが意外で、覚えてました

幼い頃の僕に、ピッタリくる歌だねぇ……

僕も小さい頃、いくら考えても、わからなかった

鈴木さん、言ってましたもんね。悩んで夜も眠れなかったって……

正直「おおげさだなぁ」って思ったけど……今聞くと気持ち、わかります

ありがとう。そう感じてもらえて、よかったよ

僕が最初、会いに行ったのは、社長仲間だった

社長さんっすか!

うん。僕が起業した時に、何かと相談に乗ってくれた大先輩でね

右も左もわからない僕に、いつも的確なアドバイスをくれたんだ

会社が今みたいに大きくなったのも、その人のおかげだよ

誰に聞こうと思った時、真っ先にその人の顔が浮かんだんだ

鈴木さんの師匠ですか!

そう、経営の師匠だね

それで、その社長にすぐ連絡をした。すると、二つ返事でOKをもらえたんだ

その夜すぐに社長の自宅に伺ってね。――僕はためらいつつも、切り出した

(ゴクリ……)

「今回は本当に大変だったな……。まあ飲め」

「……あの、最近よく考えることがあって」

「……いきなりなんだと思われるかもしれないんですが」

「どうした? 俺たちの仲だ。言ってみろ」

「っ……、あの、人って、死んだらどうなるんでしょうか!?」

しばらくの沈黙

気まずい、ですね……

言わなきゃよかったか……なんて後悔した時

「……大丈夫。奥さんは向こうで、見守ってくれてるさ」

「きみが精一杯生きること。それが奥さんの望んでることだろ」

「っ!………そう、ですね……」

優しい言葉だった、多くの人が語るような

いい人ですね……

けど、この言葉で納得は、できなかった

いい言葉だけど、答えになってない……?

そう。  
よく語られる、聞こえはいい言葉だけど……僕が欲しい答えではなかった

彼女がいる「向こう」って何?そして、自分が死んだらどうなる?

たしかに答えになってはいない……

そう思いながら、それ以上は聞けなかった……

俺もこんな回答しちゃいそうっすね…… 

実際、他の友人も、遠からず同じ答えだった。僕を慰めるためにね

もっと本質に迫った答えを聞きたいと思った僕は、思い直した

そして、次に向かった先は――

さ、先は……?

病院だった

妻の担当医師に、聞くことにしたんだ

え、奥さんの……?

……とても、いい先生だったよ。最後まで、妻の治療に最善を尽くしてくれた

人の生死に関わる、この人なら答えてくれる

……

そう思って、相談すると、忙しい中、快諾してくれた

「鈴木さん、この度は私の力が及ばず……」

「いえ先生は力を尽くしてくださいました。それよりも……」

「私でよければなんなりと」

「先生。人って、死んだらどうなるんでしょうか……!」

「妻がいなくなってから、そればかりが気になって」

「たしかに……怖いですね。真剣に考えるほど」

「医師として私から言えることは……」

「……はい」

「生まれた以上は、死を避けることはできません」

「ですが、死について真剣に考えることは」

「いま生きていることへの感謝につながります」

「……」

感謝、かぁ……

まぁ、そうっちゃそうだけど……

なんか、はぐらかされてる感じだな……

そうなんだ

死んだらどうなるかへの問いが分からないのに、生きてることを本当に感謝できるんだろうか?

僕はまた病院を後にした

医師も、答えはくれない……

どうすればと思った時、テレビに、ある単語が映った。「死生学のススメ」――

死生学。自分の問いに答えてくれるんじゃと、テレビを食い入るように見た

死生学の教授が、語ったんだ

死を見つめることこそ、生を知ることにつながる」ってね

たしかこの前、話しましたよね

そう。僕はこの人に聞きたいと思ってね

いても立ってもいられなくて、連絡をした

「折り入って、お聞きしたいことがありまして」

「人は死んだら……どこに、行くんでしょうか?」

「……。残念ながら、死後の証明はできません」

「その人の宗教や信心によるものですから」

「死生学として、死後はこうと言い切ることはできないんです」

様々な死後の考えは聞かせてもらった。けれど……

生と死を扱う学問でも、わからない……

死生学でも、僕の問いに本気で答えてくれることはなかった

だけどヒントは得られたと思った

死後を問題にする宗教に、ヒントがあるんじゃないかとも思って……いろんな宗教団体も回ったよ

ええっ!

随分といろいろなことを言ってたなぁ

奥さんは守護霊として修行しているんだとか

これを拝むだけで、死後いい世界にいけるとか

あとは「神は乗り越えられる試練しか与えない」とかね

いや、乗り越えられる試練って……

変なものもずいぶんと多かった(笑)

本気で知りたかった僕も、論理的に納得できない宗教はさすがにイヤだった

どの宗教も問い詰めていくと、最後みんなはぐらかす

嘘っぱちの宗教はイヤだ

結局、誰に聞いても、自分が死んだらどうなるかはわからないままだった

……だけど、いろんな人の話を聞いて分かったことがある

また源氏物語の言葉だね

誰もが、いつまでも生きとどまっていられる世ではないけれど……まず私ひとりが、行方も知らぬ後生に飛び込んでいく

後生、つまり死んだ後だ

死んだら、どうなるのか……

社長も医師も教授も、みんな「後生」は知らない

妻も……自分が死ぬという事実と向き合って、人生で何が大事なのかを真剣に考えたはず

だから、僕に「人は何のために生きるのか」の問いを投げかけたんだと思う

そうか……。全部つながってたのか……

そうだね

す、鈴木さん。鈴木さんは、その後どうしたんですか?

……僕はもう、アキラメかけていた

けど、もう1つ行かなければいけないところを思い出したんだ!

先人の知恵を、明かりに

行かなければいけないところ……ですか?

そう。いわば「古の知恵の祠(ほこら)」なんだ

うおぉ〜!人里離れて生活してる、じいさんとか!? 1000年前に封印された賢者がいるとか!?

いねーから!

それはね……

本屋なんだ

え?

まさかの!?

(つづく)

全話一覧
意見を伝える

※ヨアケの内容やURLは、限定コンテンツにつき、SNS等での共有はお控えください。