#1 東洋の寓話 全人類がハチミツ漬け?究極のメタ認知

こんにちは。望月です。

山下が最近「メタバース」について暑苦しく語ってくるんですよ。

ちょっとは本を読め!って流れでトルストイの『懺悔』の話をしたら、山下の中で何かリンクしたみたいで興奮してましたね。

『懺悔』の中にトルストイが衝撃を受けた「東洋の寓話」が紹介されてて、テーマが「自分とは」。
それが刺さったみたいです。

「これ以上、人間の姿を赤裸々に表した話はない。単なる作り話ではなく、誰でも納得のゆく真実だ」

――レフ・トルストイ『懺悔』

トルストイ(著)、中村白葉・中村融(訳)『懺悔』(『トルストイ全集』14、河出書房新社、1982年)

調べてみたら元は『譬喩経』っていう経典に書かれている話らしいですね。

寓話の内容はざっとこんな感じです。

ある日、釈迦の講演会場に、多くの大衆にまじって1人の王様が現れた。

名前は「勝光王(しょうこうおう)」。

そして、初めて講演を聞く王様に、釈迦は、静かに話を始めた。


「王よ、それは今から幾億年の昔のことである。

ぼうぼうと草の茂った果てしのない広野を、トボトボと歩いてゆく、独りの旅人がいた。

季節は、木枯らしの吹く、淋しい秋の夕暮れだった。

やがて旅人は、うす暗い野道に、点々と散らばっている白い物に気がつき、立ち止まった。

『何だろう』と、その白い物を一つ拾い上げてみると、旅人は、驚いた。

なんとそれは、人間の白骨であったのだ。

『墓場でも火葬場でもない所に、どうしてこんな多くの人間の白骨があるのだろう?』

無気味な感じがして、あたりを見わたしながら、立ちすくんだ。

すると間もなく、前方から、異様な唸り声と足音が聞こえてきた。

『何事か』と、うす暗い前方を凝視すると、遠くから、大きな虎が近づいてくるではないか。

飢えに狂った凶暴なである。

とっさに、『この白骨は、自分と同じような旅人が、猛虎に食われた残骸だったのだ』と、気がついた。

彼らと同じ運命が、自分にも迫っていることに驚いた旅人は、無我夢中で、今来た道をUターンし、全力疾走した。

それから、どれ位経っただろうか。どう道を間違えたのか、断崖絶壁の頂上に旅人は追い詰められていた。

ついに、虎の荒い鼻息を背中に感じ、もうダメだ、と観念した時である。

旅人は、崖の上の松の木から、一本の藤ヅルが垂れ下がっているのを発見した。

その藤ヅルを伝って旅人は、スルスルと滑り下りた。

九死に一生を得たと、ホッと一息ついて頭上を見る。

すると、虎はすでに断崖の上に立ち、『やっと見つけた獲物を逃がした!』と、口を裂いて吠え続けていた。

旅人は、『やれやれ、この藤ヅルのおかげで助かった……。』と、ホッとした。

虎から逃げられたことに安心した旅人は、やがて、崖の下が気になってきた。

そして、足下に眼を落とすと、凍ったように唇の色を失い、『アッ』と心の中で叫んだ。

崖の下には、底知れない深海が広がっていた。

旅人がぶら下がる絶壁は、怒り狂ったような激しい波に洗われている。

そして、その波間から、青・赤・黒の三匹の毒龍が、大きく口を開き、崖から落ちようとする獲物を待ち構えていたのだ。

余りの光景に全身が震えた旅人は、再び、藤ヅルをグッと強く握り直した。

しかし、人の心はいつの間にか、どんな恐怖も悲しみも次第に薄れてゆくものだ。

『ジタバタ騒いでも仕方がない』と、少し心が静まった旅人は、急に、強い飢えに襲われた。

そういえば、しばらく前から、何も食べていなかった。

『なにか、食べられるものはないだろうか?』

辺りに食べ物を探して、ふと頭上を見上げたところ、旅人は、ギョッとして息を呑んだ。

藤ヅルが絡みつく枝に、白と黒の二匹のネズミが現れていたのだ。

そして、旅人の命綱である藤ヅルを、交互にかじりながらグルグルと回っているではないか。

このまま放っておけば、藤ヅルは、やがて白か黒のネズミに噛み切られ、自分は毒龍のエサになる。

そんな一大事が刻々と迫っているのを知った旅人は、顔は青ざめ、歯はガタガタと鳴りだし、身の震えが止まらなくなった。

――だが、そんな緊迫した恐怖も長くは続かない。

『一刻も早くネズミを追い払わねばならぬ』と旅人は、必死に藤ヅルを揺さぶることにした。

しかし、二匹のネズミが藤ヅルをかじりながら回るテンポには、少しの変化もない。

ただ、藤ヅルを揺さぶる毎に、何かが、ポタ……ポタ……と落ちてくる。

ふと、手の平で受けてみると、なんと、ハチミツではないか。藤ヅルの元にミツバチが巣を造っていたのだ。

旅人が激しく巣を揺らしたので、蜜が垂れ落ちてきていたのである。

旅人は、ハチミツを一舐めした。

飢餓状態に苦しんでいた旅人に、一舐めしたハチミツの甘さは、麻酔のように沁みわたり、身体がしびれるようだった。

そして旅人は、完全にハチミツの虜となった。

虎のことも、毒龍のことも、ネズミのことも、すべての恐怖をすっかり忘れ、より多くのハチミツを落とし、楽しむことしか、考えられなくなったのだ。


釈迦がここまで話すと、参詣していた勝光王が驚いて立ち上がり、手を挙げた。

「お釈迦さま! なんと恐ろしい話でしょう……。それ以上お聞きしてはいられません……!

そんな窮地にいると知りながら、なぜ旅人は、ハチミツに夢中になれるのでしょうか……?」

呆れる勝光王に、静かに釈迦は説いた。

「――勝光王よ、よく聞かれるがよい。実はこの旅人とは、そなたのことなのだ」

「えっ……。どうして、この旅人が私なのですか?」

いや、そなた1人のことではない。この旅人とは、古今東西のすべての人間の姿なのだ

釈迦の言葉に、その場の聴衆は一同驚いて総立ちになった。


とまぁ、内容はこんな感じです。

色々調べてみると寓話に出てくる「虎」とか「ネズミ」とか全てに意味があるみたいで

今度鈴木さんに会うから詳しく聞いてみますね。

そろそろ『懺悔』も返却期限だから大学に持っていかないと……。
中古で買える値段じゃないのが悔しいですね。

それじゃあまた。